宮本常一『忘れられた日本人』
読んだ。民族学者である著者が江戸末期から戦後を生きた主に西日本の老人たちのもとを訪れて聞いたさまざまな話がまとめられている。全体を通して読んでみると、静態的で閉鎖的だと思っていた日本の「ムラ」のイメージが大きく変わって、生き生きとこちらに語りかけてくるようになる。
冒頭に出てくる対馬の寄り合いの話からして面白い。村に関する事柄は、皆が集まった寄り合いで話し合われる。その寄り合いは論理的な話し合いというよりも、その事柄に関連した、自分の知っているかぎりの事例をそれぞれが話していくものらしい。そんな話し合いが何日も続いたりする。しかし何日か続けているうちに自然と結論が出る。
相手の話が非常に論理的で納得せざるを得ない、でも感情としてはモヤッとしたものが残る、というのはよくあることだ。そのモヤッとした感情をお互いに擦り合わせながら丸くしていって、皆で仲良く暮らしていくための技術がこの寄り合いなんだと思った。
土着の農民と国との関係についても面白いところが多かった。五箇条の御誓文の「各その志をとげ、人心をして倦まざらしめん事を要す」という箇所を、いつでもだれとでも寝てよいという達しだと勘違いして皆そうするようになってしまった、とか。
そしてこれを読んでる途中にジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』を思い出した。あの狸たちの生活って典型的な日本の「ムラ」を描いたものだったのか。