ヘッセ『シッダールタ』
- 作者: ヘッセ,高橋健二
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1959/05/04
- メディア: 文庫
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この本のハイライトはシッダールタの息子に対する愛情だと思った。どんなことをしても怒らず愛情を与えようとするシッダールタに対して息子はどこまでも反抗し、結局は父の元を離れていってしまう。父の愛が深ければ深いほど、息子にとってはその愛が罰のように感じられるからだ。悟りに近いシッダールタであっても、息子への愛情だけはどうしても断ち切れず、苦悶する。この親子という関係ほどこの世にままならないものはない。肉体的には一番近い存在にも関わらず、理解ができない絶望的な存在だ。親子の関係はそういう宿命にあるのかもしれない。
もうひとつ印象にのこったのは、川岸で友人のゴーヴィンダに再会したあと、シッダールタが自分のこれまでの人生について思いを巡らす場面だ。
彼は下り坂をたどった。今ふたたび彼はこの世界に空虚に裸に愚かになって立っていた。しかし、その点について彼は少しも悲しみを感じなかった。それどころか、笑いたい気を、自分自身を笑いたい気を、この奇妙な愚かしい世界を笑いたい気を大いにそそられた。
長い年月に渡って苦難を重ね、齢をとったシッダールタにも関わらず、彼の人生には何一つ残っていなかった。自分もこのままいけばあっという間に30になり、40になり、50になるだろう。その年齢まで生きたとしても、自分の人生は何にもなっていないかもしれない。その事実を目の当たりにしたときに、自分の人生をただ笑ってやれたらいいなと思う。そういう希望があった。