トキオブログ

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コミュニティの中で生きる「ヤバい社会学」

ヤバい社会学

ヤバい社会学



  図書館で借りてきて、読みました。1990年代にシカゴ大学社会学を専攻していた著者は、低所得層の黒人たちが数多く住むシカゴの巨大団地、ロバート・テイラー・ホームズで実際にそこで生きる人々とツるみながら、内側から彼らの生活を眺め、研究をしようとした。この本は社会学的な調査の結果をまとめたというより、著者がどういう風にコミュニティに入って人々と関わっていったか、ということが書かれている。難しいデータや数字なんかは出てこず、スラスラ読めてとても面白かったです。
  あたしたちはコミュニティに住んでいるんだよ。わかる?団地に住んでいるんじゃないの。
  団地には様々な人間たちが出入りしている。住民たち、ギャング、ヤク中、売春婦、ホームレス、警察、牧師、役人など、実際にそのコミュニティの中に入ってみないと体感できない微妙な力関係だったり、助け合いがあることが読んでいると分かってくる。相手を恐れているが一方で頼っている。女同士、男同士という連帯もあったりする。
  そしてこの複雑なコミュニティの中では、色んなところに顔を出すということがどれほど大切なのかが、団地を取りまとめるギャングのリーダーであるJTの仕事を見ているとよく分かってくる。JTの仕事は管理職といった方がいい。団地の見回り、大きなことに繋がりそうな揉め事の解決、リーダー同士の調停、子供たちに与える文房具への寄付、パーティーのあとの掃除に人を派遣する、などなど。
  この本を読む前、自分はこんな本を読んでた。

なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか(祥伝社新書228)

なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか(祥伝社新書228)


  駅前の古い不動産屋が、なぜ潰れないかというと、彼らには独自のネットワークがあるからだ、という話だった。その確固たるネットワークは、日常のチマチマした手伝いに支えられている。具体的に言えば、商店街のイベントに参加、ごみ掃除、葬式の手伝い、ちょっとした送迎、問題を解決したい人に解決できる専門家を紹介するなど。こういう手伝いで顔を売っておく、人と関わっておくことが、あとあと相続の時に大きな話が来たり、人づてに物件の管理が回って来たりすることにつながる訳だ。だからいわゆる部屋探しをしている新規顧客がほとんどいなくても、街の不動産屋の経済は回っている。自分もそれに近いところで働いているけど、これは本当にその通りで、頷くしかなかった。あるコミュニティで権力を握ったり、のちのち大きなバックを得るには日常の手伝いが一番重要という点で、90年代のシカゴのゲットーと現代の東京が結びつくとは思わなかった。
  ただ、彼らのコミュニティが上手くいっているように見えたとしても、元々少ないパイの中でやりくり・取り合いしてることには代わりがないのが問題だろう。あとは権力のある個人への依存が大きいほど、その個人がいなくなったときにどうなるんだろう、という問題もあるかもしれない。どうやってパイを増やすのか考える時に、社会学が、そしてこういうコミュニティの内側から見た研究が活きていくんだろうなと思った。