トキオブログ

思うことをうまく文章にしたいです

人生の普遍的なつらさ ニコ・ウォーカー「チェリー」

 読みながら、これはアメリカ的な小説だなだと思った。そう思ってから、いやアメリカ的って何だ?となった。でもとにかくこの小説はアメリカ的だし、自分はアメリカ的なものを求めていたので、上手くはまった。

 「チェリー」は著者のニコ・ウォーカーの自伝的な小説だ。陸軍に入りイラクに派遣された著者が、帰国後にPTSDを患ってヘロイン常習者となり、銀行強盗の罪を犯して服役をしている時に書いた本だ。

 

 

 秋になる頃、俺たちはちょっとおかしくなっていた。あの国の上流の階層からまともな人間の集団として見てもらえなくなっていた。ドアを蹴破る、家をぶっ壊す、人を撃ち殺す。まるでサイコだってわけだ。俺たちはもう終わらせたがっていた。もう面白いことは何もない。そこにはなんにもない。俺たちは時間をむだにしたのだ。負けたのだ。

 軍隊で過ごした日々や、ヘロイン中毒になってからの無意味な生活の繰り返しが、キレのいい文章で書かれている。これは人生そのものだと感じる。この小説は彼自身のつらい体験を追っていくというよりも、人生の普遍的なつらさを思い知らせてくれる。愛する人が去っていく悲しみ、無意味に思える仕事、良い奴は死んで、クソみたいな奴が普通に生きている世界。汚い言葉のあいだに、感傷的すぎない、どこか詩的で美しい文章がときどき挟まれたりするバランスが良かった。とにかくクールな小説だ。

ときどき俺は青春をむだにしてるんじゃないかと考える。と言ってもいろんなものの美しさを知らずにいるわけじゃない。俺はあらゆる美しいものを心に受けとめる。心が締めつけられて死にそうになることもある。だから、そういうことじゃない。ただ俺は、俺のなかの何かに、普通じゃない部分に、どこかへ引っぱられていくような気がするのだ。

 主人公達がヘロインの繋ぎとして常用している鎮痛剤オキシコンチンだけど、これもオピオイド系の薬らしい。去年「DOPE SICK」という本を知って、ふーんと思ってたけど、次はこれを読みたくなった。