トキオブログ

思うことをうまく文章にしたいです

山本文緒『無人島のふたり』を読んだ

 昨年、山本文緒さんが膵臓癌で亡くなった。彼女のファンだったと言えるほどではないけど、『プラナリア』は短編小説なのにすごい密度だったし、『結婚願望』や『紙婚式』はちょこっと感想も書いていた。

 その山本文緒さんが、膵臓癌の告知を受けてから亡くなる直前まで書いていた日記が本になり出版された。

 

 

 体調は良かったり悪かったりを繰り返しているけど、やはりページをめくっていくたびに悪い方へと進んでいるのが分かるので、つらい気持ちになる。余命が告知されるくらいのステージになると体調も悪いし、そこから悔いを残さないよう何かやろうと思っても、できることは少ないんだなと気づく。人に会うことすら体調次第では難しい。死ぬまでにやりたいことは死ぬ間際にはできない。健康なうちにやるしかない。それにしても抗がん剤治療って、そんなにつらいんだな...。自分はなにも知らない。

 山本さんの日記ではあるけれど、タイトルが『無人島のふたり』になっているとおり、主人公はご夫婦ふたりだ。料理を床に落として、そこで泣いてしまうご主人の姿に胸が詰まる。追い詰められたり落ち込んでたりすると、取るに足らないことがきっかけで気持ちが溢れることってある。どんな夫婦にも必ず最期があるけれど、はたして自分たちはどんな形の夫婦になるんだろうと考えこんでしまう。

 これは勝手な推測で申し訳ないんだけど、最期に山本さんに会いたかったけど会えなかった周りの人たち(と読者)は、この日記を読むことで山本さんに会えて、悲しいけどお別れできたんじゃないかと思う。山本さんのユーモア、周りの人へのあたたかい気持ち、冷静な観察力、そういう山本さんの姿がはっきり見えてくる文章だった。